2020年3月31日、全国22万非常勤から労働基本権がはく奪されました
多くの方は、日本の公務員が労働基本権を制限されていることをご存じでしょう。しかし現実には、労働基本権のある労働者が自治体に22万人もいました。特別職の非常勤職員です。自治体の臨時・非常勤職員は、その8割を女性が占め、多くが福祉や教育の現場で働いています。しかし雇用が不安定で低待遇のため、1980年代後半から、雇用安定・格差是正にむけ労働基本権を活用した取りくみが各地で進められてきました。
多くは合同労組・混合組合を結成しての取りくみで、私たち4団体※もその一翼を担ってきた自負があります。※連帯労働者組合・杉並、連帯労働者組合・板橋区パート、アルバイト・派遣・パート非正規等労働組合、京都自治体関連労働者自立組合非常勤嘱託職員部会
しかし、2017年の地方公務員法の改定(施行が2020年4月1日)により、この22万非常勤の労働基本権がはく奪されたのです。
法改定で奪われたもの ——当たり前の労働組合活動ができない!
法改定以前は、自治体の非常勤が合同労組や個人加盟のユニオンにかけこみ、問題の解決に至った事例が多くありました。このような民間労働者では当たり前の、労働組合へ自由に加入したり、結成することができなくなりました。自治体の職員だけで、それも個々の自治体ごとに「職員団体」を結成しなければならなくなったのです。
さらに交渉して合意したことについて、労働協約を結ぶこともできません。交渉が不調なときや、不当な扱いがあったときに活用してきた労働委員会制度が使えません。
私たちは合同労組・混合組合を結成し、労働基本権を活用して、労働条件の改善をはかってきたわけですが、これらが奪われたのです。
恣意的な雇止めが横行し、正規公務員に比して、大きな格差のある非正規公務員にこそ、労働基本権が必要なのにもかかわらず、です。
法改定の狙いは合同労組つぶし!
全国の自治体は、総務省の強い指導のもと人員削減を競わされ続け、常勤職員(正規公務員)の数は年々減少してきました。2005年の304万人が2020年は276万人となっています。一方、臨時・非常勤職員(非正規公務員)は年々増え続け、2005年の45万人が2020年には69万人に上っています。
総務省は増え続ける自治体非正規公務員の取り扱いをめぐって、2度にわたって「労働者性のある者」を特別職から一般職に移行させるよう促してきました。しかし、この通知が徹底しないことに業を煮やし、2017年に地方公務員法を改定して、一般職の「会計年度任用職員(一般職非常勤職員)」への移行を強行したのです。
「労働者性のある者」、つまり労働基本権を持つ特別職非常勤職員を根絶すること、これが政府の狙いだったのです。東京の公務公共一般労組、大阪教育合同労組が画期的な中労委命令を勝ちとったことがこの背景にあります。
<2020年、ILO専門家委員会が画期的見解を表明!>
私たち(=ILO申立てをした連帯労働者組合・杉並ほか3団体)は地公法改定の直後より、ILO結社の自由委員会から専門家委員会への申立てへと闘いを継続してきました。
2020年、専門家委員会は「非正規公務員の労働基本権を奪わないように」とする画期的見解を示し、続く2021年でさらに補強しています。これが下記に掲載した見解です。
参照サイト「非正規公務員労働基本権/ILO申立」
Twitter「連帯・杉並」
改定地公法の施行以降、一層の雇用不安定と差別的待遇が固定化されています
改定地公法のポイントは、「ボーナス支給」と抱き合わせで「会計年度任用職員」なる1年任期の職を創設した点です。仕事は1年でなくならないのに、1年任期を法律で押しつけたのです。このため、東京都港区の「3年雇用」、埼玉県越谷市の「2年雇用」が押しつぶされました。
1年任期とされたことに加えて、「更新ではなく、毎年改めて採用」との解釈により、毎年試用期間がある、数年ごとに公募にさらされる、など、不安定な状況はより強化されました。また、ボーナスは出ても、その分の月例賃金が減らされる事例も続出しました。
いつ雇止めされるかわからない、労働条件の不利益変更が押しつけられる、などの非正規公務員の置かれた状況のもとでは、労働基本権を活用した取組みが欠かせません。最低限、地方公営企業労働関係法を適用させて、自由な団結権と労働協約締結権、そして労働委員会の活用、を保障させることが必要です。
労働基本権は働く全ての人に必要不可欠な権利です
「仕事に8時間を、休息に8時間を、私たちがやりたいことに8時間を!」
これは8時間労働制を要求して苦闘していた1880~90年代の世界の労働者の共通スローガンです。当時の労働者たちには、団結権やストライキなどの権利は保障されていません。8時間労働制を求める集会で警官に射殺されたり、労働運動とは別の事件をデッチあげられて、労組幹部が処刑されたりしていました。
関西生コン労組への弾圧は、労働組合が団結し団体行動をする権利そのものへの攻撃となっています。過労死で亡くなる人がいたり、ホワイトカラーエグゼンプションと称して「残業0円定額働かせ放題」を経済界は求めるなどしています。そして、いわゆる「ギグワーカー」です。個人事業主とみなして、そもそもアタマから労働法を適用しない動きが猛烈に広まっています。
労働基本権を勝ちとるために、世界の労働者が積み重ねてきた汗と涙と血の歴史。これに思いをはせるとき、先人が積み上げてくれた権利や労働条件を奪う行為について、官民の分断をはねのけて、労働基本権を行使して闘うことこそが必要とされているのです。
皆さん! ILOの取りくみに注目を!
【2021専門家委員会の見解-関連部分の抜粋】
翻訳協力:菱山繁さん
監修:Charles Weathersさん
<日本>「結社の自由及び団結権保護」条約、1948(No. 87)(批准:1965)
(前略)
さらに委員会は、連帯・杉並、連帯労組・板橋区パート、ユニオンらくだ、あぱけん神戸が、2020年4月に施行された改正地方公務員法が組合員の団結権に及ぼす悪影響に言及し、以下のように述べていることに留意する。
(ì)非正規地方公務員とのその組合は、労働基本権と不当労働行為が疑われる場合に労働委員会に申し立てることができることを規定した一般労働法の対象外である。
(ⅱ)非常勤職員を恒常的業務に充てることに制限をかけることを目的とする新制度は、労働基本権を剥奪される労働者の数を増加させる効果を有する。
(ⅲ)現行の条件付年次雇用制度は、雇用不安を生み出しており、組合活動を弱体化させる。
(ⅳ)こうした状況に鑑みるとすべての公務員の労働基本権を早急に回復することがさらに求められている。
委員会は、政府が、法改正によって特別職の職員と臨時職員が適切に任用されるようになるとともに、一般職非常勤職員を任用する枠組みが明確になる、との認識を示していることに留意する。この法改正は、これらの職員/従業員の地位を保障するとともに、これらの職員/従業員に対するいくつかの手当を導入するものである。政府によれば、労働基本権の条件変更は、それ故に、本来想定されていた任用形態が保障された結果である。
従って、政府の見解では、法改正は臨時・非常勤職員から労働基本権を奪うという連帯・杉並の声明の内容は、正確ではない。
委員会は、政府が身分の変更は非常勤職員の待遇を改善すると繰り返し主張していることに留意しつつ、これらの法改正は条約上の権利が完全に確保されていない公共部門労働者の範囲を拡大させる効果を有することを指摘する。
従って、委員会は政府に対し、こうした法改正の導入によって自治体の労働組合が長年保持してきた労働組合の権利を剥奪されないようにするため、自律的な労使関係システムを直ちに検討することを強く勧める。また委員会は、政府がこの点について講じられる、或いは、想定される措置に関する詳細な情報を提供することを要請する。
委員会は、政府が引き続き社会的パートナーから意見を聴取する傍ら、2018年に総会委員会によってまとめられた結論と勧告及び自律的な労使関係システムの構築に向けた施策に関する様々な懸念への対応策を慎重に検討していると表明していることに留意する。
政府は、この点に関する取り組みについて、誠意を持って定期的に情報を提供する意向だ。
自律的な労使関係システムの構築に必要な措置を講ずることに意味のある進展が見られないということを含む総会委員会の結論を想起し、委員会は政府に対し、関係する社会的パートナーとの協議で、上記の勧告を実施するための「期限を区切った行動計画」を精緻化するために講じられた、あるいは想定されるすべての措置を示すとともに、この点に関するあらゆる進捗状況を報告することを再度強く要請する。
※斜体字が専門家委員会の見解です。下線部は2020報告書に付加された部分です。